対談企画「心をつなぐ」
幸福先進国に学ぶ「輝く社会」

福祉国家スウェーデン 幸せの源流 私たちは「同じ船に乗った仲間」
スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランドなどの北欧諸国は、社会福祉の先進国として日本の20、30年先をいくと評されます。しかも、国連が発表している「世界幸福度ランキング」では北欧諸国が毎年上位を占めています。その中で、特に保守性や勤勉さなど、気質が日本とよく似ていると言われるのがスウェーデン。そこではどのように幸福度の高い豊かな社会が営まれているのか。ロイヤルハウジングが目指す4 つのビジョン ①高齢者支援②子育て支援③働く女性支援④障がい者支援 の観点から紐解いていきます。
福祉国家スウェーデンと日本の違いは何か。明治大学国際日本学部の鈴木賢志教授はこう指摘します。「日本では、高齢者や子ども・働く女性・障がい者はサポートが必要な社会的〝弱者〞、守ってあげるべき存在として扱われます。けれど、スウェーデンでは彼らは〝弱者〞ではなく、あくまでも〝同じ船に乗った仲間〞です。彼らなりにできることで社会参加を目指します」
その源流は、「バイキング」精神にあるとか。日本人の根底に流れるのが「サムライ」魂だとするならば、北欧の人々にとってはバイキング。ヨーロッパ辺境の極寒の地に暮らし、かつてひとつの船で命がけの長い航海に出ていた彼らにとって、1人ひとりができることをしなければ生きていけなかったのです。同じ船に乗った仲間たちは、誰もが自分らしくできることをやり、お互いにそのためのサポートは惜しまず、助け合って生き抜く。皆がいかに「自立」し、どう社会と関わるかを考えることこそ、北欧流の幸せの源かもしれません。

【 高齢者支援】愛着のある〝自分の家〞「地域で支えあう豊かな社会」
いま福祉先進国が目指す高齢者ケアは「できる限り、住み慣れた家に暮らし続ける」こと。スウェーデンの家では、段差をなくし、廊下の幅を広げ、階段にリフトを付けるなどの様々なバリアフリー化に、市町村から上限なしの補助金が出ます。また、やむなく自宅を離れ施設に入る場合も、できるだけ自分の家に近い状態にする配慮がなされます。例えば、愛着のある家具や雑貨を持ち込むだけでなく、同じ壁紙でリフォームすることも。スウェーデン総合研究所の田村恵美子氏によると、日本では個人スペースは寝室だけという老人ホームも多いですが、スウェーデンでは高齢者1人あたりの居室基準はかなり広く、2LDK・65㎡と定められているとか。これは「訪ねてくる家族や友人が一緒に寝泊まりできるように」という理由からです。個々のケアを受けながらも、そこが日常生活を送る空間=〝自分の家〞かどうかが問われるのです。
スウェーデンの福祉理念やケア手法を積極的に取り入れた施設を運営している舞浜倶楽部のグスタフ・ストランデル社長は、日本の福祉の可能性をこう評価します。 「20年前にスウェーデンから来日し、日本全国約300ヶ所の高齢者施設を見て回りました。当時は、決して日常生活が送れる場とは言えなかった。けれどスウェーデンも、かつてはそうだったのです。そして今、日本も大きく変わってきました。日本の福祉は、アジアのお手本になっていくと思います」。北欧のように「認知症になっても大丈夫。地域で支えよう」と言える豊かな社会を、日本も実現できるとグスタフさんは言います。日本での課題は、家族や介護スタッフだけでなく、より地域の人々と交流し、地域で見守る仕組みの充実です。北欧では、高齢者ケアは保険ではなく税金で賄われ、年金は誰でも平等に分配されるため、老後の住まいや生活を心配することはほとんどありません。もちろん、こうした社会制度はそのまま真似することはできませんが、「隣近所で支えあう」という豊かな文化の土壌が日本にはあるのですから。

【子育て・働く女性支援】子どもの人権をベースに考える「北欧に〝イクメン〞はいない?」
北欧には「イクメン」に相当する言葉はないそうです。男性が子育てをするのは当たり前だから、というのがその答え。子育ては手伝うものでも参加するものでもなく、あくまでも夫婦が一緒にやるものなのです。父親の育児休暇取得率が9割に迫るスウェーデンでは、子ども1 人あたり480日の有給育児休暇が認められ、それを父母で分け合うシステムです。休暇は子どもが8歳になるまで、半日単位で申請でき、その間の給料もほぼ変わりません(最大3 9 0 日間は給与の8 割保障)。驚くべきは、その申請先が勤め先の会社ではなく「社会保険庁」のホームページだということ。ネットで簡単に申請できます。
しかし前述の鈴木教授は、そもそも「子育て支援」の捉え方からして違うと言います。「日本では、働く親(主に母親)を助けることが子育て支援だと考えがち。〝働きたい人が働ける〞ための支援です。一方、北欧では〝子どもには、父母どちらにも育てられる権利がある〞という子どもの人権をベースに考えます。そして働く親たちへの手厚い制度も、あなたにこれだけ投資するのだから、むしろ能力を活かして今後も社会のために存分に働いてくださいね、というスタンスなのです」。
また教育も、幼少期から大学まですべて「無料」です。奨学金制度もありますが、日本のように学費援助ではなく生活費のため。才能豊かな子どもが教育を受けられないのは、個人の損失だけでなく、国や社会としての損失だと考えるのです。
【障がい者支援】国が会社を作って雇用促進「障がい者も納税者に!」
スウェーデンでは、障がい者もケアされるだけでなく、積極的に仕事をして納税者であるべきだという考えのもと、画期的な雇用促進が行なわれています。1980年に国が投資して生まれた巨大企業、SAMHALL (サムハル)株式会社。従業員2万2000人のほとんどが、身体・知的・精神など多様な障がいがある人たちです。多くの企業から業務受託しており、製造業や仕分け、パッキングなどの下請け業務だけでなく、配膳・調理、クリーニング、買い物代行などのサービス業も。彼らには健常者と変わらない給料が支払われ、同じく高い税金を納めます。そして個人に合った研修システムで生産性を高めた後、年間1000人以上がサムハルを卒業し、地域社会で〝転職〞していきます。
障がい者を「弱者」として保護するのではなく、労働と納税を通じて社会参加を促す試みは、誰にでも等しく「働く喜び」があると教えてくれます。ちなみに、北欧は税金が高いとよく言われますが、スウェーデン人にとっては「税金は、取られるものではなく預けるもの」なのだそうです。
〝実験〞国家 スウェーデンに学ぶ「頭で考えるより、現場の声を聴け」
スウェーデンを、フレキシブルな〝実験国家〞と評する声があります。今でこそ福祉先進国と呼ばれる北欧諸国も、最初から全てがうまくいったわけではなく、たくさんのトライアンドエラーが今も続いています。いいと思ったら、やってみる。不都合や間違いに気づいたら、すぐやり直す。頭で考えるのではなく、現場の声を重視し、失敗を素直に認める寛容さがあるのです。
スウェーデンの現場をよく知るグスタフさんは、この「現場の声を聴く」ことが日本の福祉の課題のひとつだと言います。例えば認知症やパーキンソン病、末期ガンや看取りなど、より複雑で個人的な高齢者ケアが求められる今、様々な場面で期待されるのが日本の高度なIT技術の活用です。ただし、大切なのは「誰もが使いやすいもの」であること。大学の研究室や企業でどんなに素晴らしい福祉用具や機器を開発しても、日本では実際に使う当事者の声が反映されていないことがまだ多いと言います。いかに現場に近いところから開発を始められるか。せっかくの技術力を活かすも殺すも、答えは現場のみぞ知る、なのです。
福祉国家スウェーデンには、こんな言葉があります。
「国は、国民の家である」。
すべての人々が平等で、協調して助け合い、安心と安全を感じられる社会は、ひとつ屋根の下に暮らす家族を思いやる、そんな気持ちから始まるのかもしれません。
(ロイヤル4つの支援取材班/谷本 有香・小笠原 みさき・鈴木 卓也)
取材後記
こどもの頃に読んだ、スウェーデン生まれの物語。『長くつ下のピッピ』や『やかまし村の子どもたち』は私にとって「幸福」を絵に描いたような作品でした。質素だけれども、自然や季節を愛で、日々の生活を楽しむ。本を読みながら目の前に広がるイメージは、そんなシンプルな幸せの姿でした。10回にわたるこの連載で、私たちが追求してきたものは、そんな「幸せの見つけ方」だったように思います。
人生100年時代といわれ、医療の進歩によって健康寿命を手に入れた先に、人々が最も求めるもの。それを私たちは提供していきたい。
私たちロイヤルハウジンググループは、これからも「4つの支援」を大切にし、すべての人がより暮らしやすい社会となるよう応援してまいります。
ロイヤルハウジンググループ
上席執行役員 谷本 有香
