ご挨拶

 子どもたちは、夢と未来の担い手、社会の希望。
誰もその将来を奪う権利はない。
けれど、子どものかけがえのない命や尊い未来が、親によって奪われる痛ましい事件が相次いでいる。
近年では、目黒区5歳女児や千葉・野田市10歳女児、札幌市2歳女児の死亡事件、さらに横浜市では3歳女児のやけど放置など、枚挙にいとまがない。
虐待により心身に傷を負う子どもたちが増えていることは極めて無念に思う。
子どもたちの声なき声に耳を傾け、シグナルを受け止めるための感受性をさらに高め、社会全体で子どもたちを守り育んでいくことが必要である。
 今、私たち一人ひとりが子どもたちのために何をすべきかを考え、行動する時期を迎えている。
この瞬間にも虐待に怯え、将来への希望を見失っている子どもたちが私たちのすぐそばにいるのではないか?―そういった緊張感と当事者意識を持ち合わせていくことが大切である。
 そのためにオレンジリボン運動をはじめとする啓発活動は、これまで以上に充実した取り組みが求められている。
既存の取り組みをさらに踏み込んだ実効性のあるものに進化させ、子どもたちの命と未来を守り抜く決意と覚悟を示しつつ、その共感の輪を広げるために、私たちロイヤルハウジンググループも引き続き協力していきたい。
 また先日、児童虐待防止法の改正案が全会一致で可決された。
体罰禁止の法定化や児童相談所の体制強化、さらに市町村や学校・教育委員会、警察との連携強化にも言及している。
そんな中、医師や弁護士など専門職種の方々が、日本初の子どものワンストップセンターをつくろうと新たなNPOを立ち上げた。
ここを皮切りに、分断されていた関係機関を「子どもを主体」につなぐ場が日本全国に広がっていくことを切に願い、応援している。
 私たち民間企業ができることは何か。
例えば、宅配業者や郵便局などに協力を呼びかけ、新たな情報提供ネットワークの構築なども提案したい。 
 虐待の未然防止には特に、自助・共助・公助の三助が必要である。
私たち一人ひとりが、地域全体で誰もができる「共助」=子どもを見守る目をどう作り上げていくのか、その仕組みづくりにこれからも真摯に取り組んでいきたい。

ロイヤルハウジンググループ
CEO 木島寛

子どもを虐待から守るために

社会の希望である子どもたちを守り育むために、私たち1人ひとり、そして民間企業ができることは何か。

子ども虐待のない社会の実現を目指す市民運動であるオレンジリボン運動の総合窓口を担っている認定NPO法人「児童虐待防止全国ネットワーク」の吉田理事長との対談を通し、考えました。

小さな親切心から始まる「見守りの目」

木島:私たちの仕事は"住まい"を通じたしあわせのお手伝いです。
最近は、子育てを温かく見守る町や地域をどう作っていくか、日々考えています。

吉田:やはり学校や児童相談所任せにせず、1人ひとりの見守りの目が大切です。
気になることがあったら、何でも地域の児童相談所につながる「189」にお電話ください。
ためらわれる方もいますが、これは密告や通告ではなく"困っている人への支援"だと考えてみてください。
子どもを助けるだけでなく、困っている親を犯罪者にしないためにも、SOSをつなげることは大切です。

木島:私は社員教育で「小さな親切心」活動における10か条をつくりました。
そのひとつが「困っている人がいたら積極的に声掛けをしよう」です。
目の前の困っている人を自分の家族と思えと。
創業45年、この気持ちは変わりません。
大げさなことでなくてもいい、小さな親切心が大切なんだと。

吉田:まさにそういうことだと思います。
たった一言でいい。
電車内で、肩身が狭そうなベビーカーのお母さんがいたら「かわいいですね」と声をかけて微笑んであげる。
子育てに困っていそうな人がいたら「子育てがんばっていますね」とか。
まずは、子育てで追い詰められている親御さんの心をほぐしてあげることが大切です。

木島:自助・公助だけでなく、見守りの「共助」をひとつずつ作り上げていきたいです。

吉田:起きている虐待をいかに止めるかはよく議論されますが、これからは虐待「防止」ではなく「予防」を訴えたい。
今こそ、転換期です。

困っている人がいたら積極的に声掛けを

吉田:子ども虐待のニュースが流れると、すぐ「とんでもない親だ」と親叩きになりがちですが、実はその親自身が〝困っている人〟であることも多いです。
虐待防止は、厳罰化や強制介入だけでは解決できない問題。
経済的な問題、子育ての悩み…そうした親の〝困りごと〟に向き合い、根本的にどう支援し解消するかを考えなければなりません。

木島:私たちも仕事を通し子育て支援、働く女性支援を続けてきました。
シングル家庭や生活保護で入居が難しい方へのサポート、また困っている方を正社員として積極的に採用するなど。
しかし今は、さらにもう一歩進んだケアが求められていると感じます。

吉田:子どもを預けられない。
長時間労働で時間がない。
夫の協力がなくワンオペ育児で追い込まれる。
そして不安や疲労、ストレスが溜まってつい子どもに向いてしまう。
虐待する親は、決して特異な人だけではありません。どこの家庭でも起こり得るものです。
環境やふとしたストレスから始まり、止めたくても止められずに苦しんでいる親御さんもたくさんいます。

木島:親御さんの中には「負の連鎖」もありますよね。
虐待されて育った子どもが親になったときに、同じように虐待を繰り返してしまうという。

吉田:子どもの頃に虐待を受けていた親の約3分の1は、自らの子どもを虐待するようになると言われています。
虐待で受けた精神的な傷は計り知れず、大きくなっても簡単には癒えません。
だからこそ、早期の支援が大切なのです。

小さな命のSOSに気づく

木島:私が特に気になっているのは、自分ではSOSを発信しにくい乳幼児です。
虐待の4割以上が、小学校入学前だそうですね。
小さな子どもの相談が気軽にできたり、周りの人が些細なSOSに気づける社会をつくりたい。
声なき声をしっかりと拾える環境をつくりたいです。

吉田:長い間、保育園や児童館などの健全育成分野と虐待防止の観点は分断されてきました。
児童相談所の人が出てくると、急に親は「子どもを取られてしまう」と頑なにSOSを発信しなくなることも。
けれど、保育士や学童の先生なら小さな変化に気づく機会も多く、親御さんとの人間関係も築きやすいはずです。
例えば、いつも同じ服を着ている、着替えのときにケガを見つけた、子どもの親への接し方がおかしい…
小さな合図から親子のSOSに気づければ、支援の手も差し伸べやすくなります。
虐待防止法でも、児童相談所から家庭に戻す時に、安全の確認を行いなさい、ということになっています。

木島:本来なら家庭教育で学ぶはずの"愛"を、地域でどう養っていくか。
身近なところに、信頼できる手を差し伸べてくれる大人がいることが大切です。

声なき声を聞き逃さない場を

木島:地域の見守りの目として、ぜひ高齢者たちにこそ活躍してもらいたい。
我々はシニア向け物件も多く取り扱っていますが、皆さんまだ若いし、元気です。
特に学校の先生を引退された方など、愛とやりがいをもって積極的に参加し立ち上がってほしいと思います。

吉田:子どもたちには、まっとうな大人と触れ合える場所が必要です。
虐待されている子は、それが「普通」だと思ったり、「自分のせい」と自己肯定感がとても低かったりします。
子どもの気持ちは常に揺れるもの。
どんなに嫌なことをされても、「それでも親が好き」と思ってしまうのが子どもです。
信頼できる大人と出会えたかどうかで、彼らの人生は大きく変わっていくはずです。

木島:我々が応援している「NPO法人神奈川子ども支援センターつなっぐ」は、日本初の子どものワンストップセンターを神奈川で立ち上げました。
とことん子どもを主体に、病院と児童相談所、警察や検察などの捜査機関が連携する仕組みが、民間NPOの働きかけで生まれた。
まさに「共助」の力です。子どもたちの声を聞き逃さないために、お互い「顔の見える関係」を目指していきたい。

吉田:児童相談所任せにしない、私たちの当事者意識が問われています。

木島:児童福祉司の方々は、虐待の通報を受けて訪問しても親に拒否され子どもに会えないことが多いといいます。
でしたら、宅配業者や郵便局に呼びかけ、新しい情報ネットワークの構築を提案してみたい。日々の業務で玄関内に立ち入り、親御さんとも対面していますので、生きた情報とそれをつなぐ全国ネットワークを持っています。
こうした情報を見守りの目に変えていければ、虐待の未然防止に大きく貢献してくれると思っています。

吉田:素晴らしいですね。
社会みんなで子どもを育てる。
私たちも「子どもの虐待防止オレンジリボン運動」の裾野をさらに広げるべく、邁進していきます。

木島:今後とも一緒に、子どもたちの未来をつくるお手伝いをしていきます。
どうもありがとうございました。

-NPO法人「神奈川子ども支援センターつなっぐ」とは-

神奈川県立こども医療センターの小児科医・田上幸治氏を中心に、児童相談所、警察・検察庁、裁判所、弁護士、教育・保育施設、医療機関など、関係機関との連携をはかれるワンストップセンターを立ち上げました。
従来の仕組みでは、身体的、精神的虐待を受けた子どもは、傷ついた身体と心のまま、自らが児童相談所や警察、裁判所などに出向き、何度も同じ質問をされるなど心理的負担が大きいのが現状です。
そこで、1つの場所にさえ行けば、子どもたちの意思を尊重し保障する<代弁者>が、関係機関を「つなぎ」+「タッグ」を組みサポート体制をつくる、それが「つなっぐ」の目指す姿です。
諸外国には当たり前にある「ワンストップセンター」を、まずは神奈川から発信、日本全国に広げていく活動をしています。

ロイヤルハウジンググループCEO 木島寛

ロイヤルハウジンググループは

「オレンジリボン運動」、「NPO法人神奈川子ども支援センターつなっぐ」、小児がんと 闘う子どもたちと家族の支援「認定NPO法人シャイン・オン!キッズ」を応援しています。