活動報告
新浦安
車内の一瞬
いつもの時間、いつもの車両。会社や学校へ向かう朝のざわめきで満ちた車内。始発駅から乗り込んだ私は、いつものように座席に腰を下ろし、片手でスマホを操作しながらニュースや情報に読みふけっていた。
画面の文字を追いながら、無意識に指先でスクロールしていると、視界の端で何かが反射し、一瞬きらりと光が飛び込んできた。 前に立つ女学生が、イヤホン越しに参考書へ没頭している。そのページの端に挟まれた金色の金属製しおりが、揺れの拍子に少しずれていた。
そして次の瞬間、車両が軽く揺れ、しおりは書籍からふわりと飛び出して床へ滑り落ちた。 私はスマホから目を離さないまま片手を伸ばし、素早くしおりを拾い上げた。
混雑した車内で大げさに動く必要はなく、自然な動作だった。指先に伝わる金属の冷たさが、妙に心地よい。私は腕を伸ばしてしおりを彼女の本の前に差し出したが、彼女は気づかずページをめくり続けている。
そこで私は、しおりをそっと本の上、彼女の視界に入る位置へ置き、小さな声で伝えた。 「落ちてましたよ。違いますか。」 必要最低限の声量でも、その言葉は確かに届いた。
女学生はようやく顔を上げ、イヤホンを外して驚いた表情を見せる。すぐに頬を赤らめ、はにかむように「ありがとうございます」と小さく言った。
私はしおりが参考書に戻されるのを見届けると、再びスマホの画面へ視線を戻した。だが、さっきまで読み込んでいたニュースの文字が頭に入ってこない。また1行目から読み直す。
それでも混雑した車内で交わされたほんの一瞬の出来事が、私の一日の中にも、小さな温かさをそっと残してくれた。彼女の読みかけのページを守れたのならなによりだ。